25 October, 2010

シカゴのACMから委嘱 - Chicago Report 1

これから数回に渡って、シカゴ滞在のレポートをしていきます。最初はざっと企画概要を紹介。そのあと市内観光、美術編、建築編、インタビュー動画などと続く予定です。

この記事はその1。まずは導入編として、企画と作品についてです。

シカゴの団体ACM(Accessible Contemporary Music)から2010年度の招待作曲家に選んでいただきました。Composer Alive: Nagoya と題して、ネットを通じて3ヶ月に渡って楽譜と録音のやり取りをウェブサイトで公開。徐々に作品の内容を完成させて行きました。


演奏会の情報はこちら
"Sounds From the Floating World"
2010年10月17日(日) 15:00-
会場:Loyola University Museum of Art
820 N. Michigan Ave., Chicago(アメリカ)
演奏:Palomar
http://www.acmusic.org/node/236

Program
Lied by Toshio Hosokawa
Root by Tomohisa Hashimoto (U.S. Premiere)
The Castle of Duino by Tomiko Kohjiba
Solitude In Memorium T.T. by Joji Yuasa
Sonare by Kaoru Koyama
Tsuchigumo Overture by Tomohisa Hashimoto (World Premiere)

Performers
Hülya Alpakin - piano
Alyson Berger - cello
Robin Clevenger - French horn
Alicia Poot - flute
KT Somero - clarinet
Amy Wurtz - piano
Jeff Yang - violin

"Composer Alive"はACMが毎年行っている企画ですが、今年は日本の作曲家を取り上げるという趣旨で、僕の作品『Root』と『土蜘蛛序曲』を含めて6曲が演奏されました。最初に企画の話を聞いた時は新曲だけと聞いていたのですが、いつだったかこのPalomarの編成で演奏できる曲はないかと聞かれて6年前に作った『Root』を紹介したら、この曲も取り上げてもらえることになりました。そんなわけで、初演に立ち会うため10月15日から21日までシカゴに行ったわけです。

今回の招待は名古屋在住の作曲家Jason Taylorが、僕のことをACMに紹介してくれたのがきっかけ。去年の秋ぐらいの事だったんですが、それから何にも連絡がなかったので、まあ他の人になったのだろうと思っていたら6月の頭に主宰のSethから連絡をもらって、招待してくれると聞きました。楽器についてもそこから相談して、フルート、クラリネット、ホルン、ピアノという編成で書くことになりました。

来年の初演を目指してダンスオペラ『土蜘蛛』を構想中だった僕は、今回の委嘱がちょうどいいタイミングだったので、オペラのための始まりの音楽として作曲しました。何をしたかというと能楽の『土蜘蛛』から歌の旋律だけを取り出して、8分程度の長さに音のデータをコンピュータ上でリミックス。そこから器楽用に変容をさせてつくったのがこの作品です。25日現在はまだ録音がアップされていませんが、そのうちACMのサイトで聞けると思います。映画で言うならトレーラーのようなかんじで、50分ぐらいのシーンをぎゅっと凝縮したような展開になっています。ダンスオペラ『土蜘蛛』の構想はいろいろとあるのですが、それを書き始めるといつまでたってもシカゴに辿り着かないので、またの機会とします。

7、8、9月と3回に渡って楽譜のスケッチやスコアをPDFで送って演奏を録音してもらいました。ウェブには載っていない試演のフレーズもいくつか聞いたりしながら、作品のイメージを膨らませていきました。コンピュータのソフトも発達したとはいえ、やはり本物の楽器にはまだまだ敵わないので、こうして実際に音にしてもらえるのはとても助かりました。ただ、もし録音に立ち会えればもっといろいろな実験ができただろうにと思った時もありました。

この企画を通して、西洋音楽が整備して来た五線の記譜と調律というのは、改めて良くできたシステムだなあと思います。作家が現場にいなくても、練習し、録音し、それを別の場所でかなり本物に近く聞くことができる。ダンスや演劇ではここまでの再現性を記述し記録するのはかなり大変な作業ですし、演者の身体性など楽器に比べれば遥かにそれぞれの個性がそこに関係してきます。音楽だからこそ実現できる企画とも言えるかもしれませんね。

そんなやり取りを経て、10月に入っても修正や加筆など作曲作業をして、奏者には負担をかけつつもなんとか完成した『土蜘蛛序曲』。さて、次回はシカゴへ渡るところから写真も交えて続きます。

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